町を住みこなすことで、自宅暮らしを貫く
3つの習慣を実践し、最期まで自宅で暮らすには、住まいだけではなく、町の支えも必要です。
ご近所さんを中心とした町の人々、スーパーやコンビニ、銀行や病院などの生活施設、行政のサービスなど。これらとの関係をうまく保たないと、最晩年の暮らしは成り立ちません。
行政の高齢者向け生活支援を知る
いずれ老化第三段階に入り、人の手を借りなければ自宅での生活が成り立たなくなることを見越して、日頃から利用できる生活支援サービスを知っておくことは重要です。そうすれば、生活不安から慌てて有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅などへ入居し、後悔することはありません。 行政が提供する生活支援サービスは実は多岐にわたる。東京都港区の主なひとり暮らし高齢者への支援をあげてみましょう。
・ゴミ屋敷化を防止するための「ごみの戸別訪問」「粗大ごみの運び出し収集」
・料理、片付け、掃除が一時的に無理になったときの、「家事援助」「配食サービス」
・外出の機会をつくり人との交流を促進するための「会食サービス」
・まさかの時に誰も助けてくれる人が傍にいないという、最大の不安を解消してくれる「緊急通報システム」「緊急一時介護人派遣」
など多様な生活支援サービスが提供されています。
また、運転免許の返納後の移動手段として、自主返納者に対してタクシーの料金を補助する「マイタク」サービス(群馬県前橋市)、「安心して徘徊できる街」をキャッチフレーズに、認知症の高齢者が行方不明にならないよう地域住民の見守りネットワーク(福岡県大牟田市)など、自治体により特色のある支援が打ち出されています。
もうひとつ自宅で最期を迎えるにあたり、はずせないのが訪問看護です。訪問看護利用者数の多い、ひいては訪問看護事業者数の多い都道府県では、在宅で死亡する者の割合が多いという調査結果(厚労省医政局調査)が出ています。該当するのは長野県、滋賀県、京都府、兵庫県などだ。自分の地元はどうなのか、是非確認しておきたいものです。
民間のサービスも増えている
片付け・食事づくり・掃除・洗濯といった家事全般から庭仕事(草むしりなど)、大工仕事(棚、手摺の取り付けなど)まで、日常生活に係る代行業務を引き受ける地域密着型の便利屋、家事代行業者が増えてきました。また、食事を自宅へ届けるサービス(ワタミ、セブン・イレブンなど)や宅配業者による安否確認など大手事業者が手がけるビジネスも増えています。
タクシー会社による高齢者移送サービスは普及していますが、ウーバーのライドシェアシステムを使い住民トライバーが住民を運ぶ「ささえあい交通」(京丹後市丹後町のNPO法人)はユニークなサービスとして注目されています。ちなみに丹後町は高齢化率40%の過疎地区です。
同様に過疎化が進む岩手県や北海道での安否確認を含めたコンビニ移動販売。秋田県の50品目のレトルト食品を箱に入れて配置し、週1回集金と補充に事業者が訪問する富山の置き薬型配食の試みなど、地域事情に応じた生活支援サービスも登場しています。こうした情報を探索しておくことも最期まで自宅で暮らすための準備として重要です。
生活支援を担う町の人を知る
そして実際の生活支援の担い手は町の人です。最も身近な存在は、自分が属する町内会、自治会の民生委員でしょう。日常生活の困りごとについて相談すれば、専門の機関、たとえば市町村、福祉事務所、社会福祉協議会などへつないでくれます。どこに何を相談して良いか分からないときに、頼りになる存在です。
また、高齢者の生活の困り事の万事相談所として地元の地域包括ケアセンターがあります。ここに所属している社会福祉士や保険士が健康、介護予防、生活支援、消費者被害についての相談にのってくれます。こうした人たちの存在を知っておくことも準備の一環です。
最期まで安心して暮らせる町へ住み替える
こうして見ていくと、今住んでいる町が、最期まで暮らすには、必ずしも良い条件を備えているとはいない、ということに気付く人もいるのではないでしょうか?
近所付き合いの機会が乏しい大都市の集合住宅暮らしは、高齢者の孤立を招き、老化も早いと考えられます。一方、多少の煩わしさは伴うものの、近所づきあいが欠かせない地方都市。「家事」「運動」「人付き合い」という3つの習慣は、案外地方のほうが実践しやすいのではないでしょうか。
また、主たる産業の乏しい自治体は、高齢者福祉ビジネスを一大産業と位置付け、高齢者施設や生活支援サービスに注力している点も、老化第三段階を見越した時に安心です。東京は団塊世代が後期高齢期に入る2025年には生活支援サービスの担い手不足、介護施設の不足が懸念されています。
更に生活コストの面から見ても、東京23区の物価を100とすれば、福岡市92.1、仙台市92.8と地方都市のほうが安く暮らせます。家賃にいたっては、東京23区100に対して松山市37.5、大分市37.8の安さです。日本中で空き家が増加しており、自治体によっては移住者には無償で空き家を提供するところもあります。
安心して老いることのできる町へ住み替えるというのも、大胆かつ合理的な準備だと考えます。
ただし、地域に溶け込み、人とのつながりを作っていくには、10年はかかるでしょう。引っ越すなら老化第一段階までに、それより早ければ尚可です。
最期まで自宅で暮すという目標を達成するために、3つの習慣を実践し続ける。実はその過程こそ、老いの人生そのものではないでしょうか。
(2018年1月7日)