外しの京都 「ひとつの町」を深堀する
京都の旅は、ガイドブックで定番を知り、雑誌の京都特集で最新トレンドを抑え、ネットで評判を確認する、というのが決まり事ではないでしょうか。確かにみんなが良いと勧めるところを“なぞる”旅は失望しない、損しないかもしれません。
でも、京都に限っては、なぞる旅はもったいない、あまりにももったいない。
“はずす”旅のほうが何倍も面白い。と、断言したくなる。これが、つたない京都暮らしの私の実感です。
では、この記事を読めば、お勧めの穴場情報を手っ取り早くゲットできるのか、と期待されそうですが、すみません。そうではありません。
定番、トレンドをあえてはずして、人知れないけれど、自分にとっての愛すべき町、通り、古刹、小店等々、自分だけの深くて濃い京都を、自身で見つけていただくための方法を、私の体験をふまえてお伝えするものです。
それでは、マイ・ディア京都を見つける旅へどうぞ!
■広く浅くから「狭く深く」へはずす
創業200年をこえる山中油店
定番、トレンドをなぞる旅は、嵐山、金閣寺、河原町の行列のできる抹茶カフェを1日がかりでタクシーを使って駆けずり回る、広く浅くの旅になりがちです。でも、自分だけの京都を見つけるには、どこか、たとえば、紫野あたりの一角に腰を据えて路地から路地を自分の足で歩いてみる、というように行動範囲を町の単位にぐっと狭くして深掘りするほうへ、はずしてみることです。では、深堀するのは、どの町がお勧めなの?という声が聞こえてきそうですね。答えは「どこの町でもいい」です。
京都の特徴は、大きくも、小さくも、どの縮尺をあてがっても、見どころ、歩きどころ、食べどころ、感じどころが、てんこ盛り、というところにあります。なぜなら、1200年分の様々な人々が生きたドラマやこん跡がいたるところに、積み重なり、その豊かな土壌から、新しいモノやコトが日々立ち上っているからです。
京都本や雑誌の京都特集が違う切り口で続々と出版されるのは、京都のネタはつきないからです。たとえば、「京都御所西 一松町物語」(杉山正明著)という本がありますが、ひとつの町をめぐって1冊の本が書けるくらいに、京都はいたるところが深堀に耐えるところなのです。
あちこちに平安宮内裏跡の表示が
私は以前、千本新出水という西陣に近いところの町家に、半年ほど住んでいたことがあります。このあたりは、およそガイドブックに載るようなところではありませんが、実は平安時代の内裏があったところで、住んでいた町家も、かの弘徽殿の跡地に建てられたものです。源氏物語ゆかりの桐壷跡だったという近所の和ろうそく屋さん(内田蝋燭店)を起点とし、我が町家を終点とする平安宮内裏跡巡り1.5時間コースができてしまう、という町内でした。
また先の大戦の折、京都は空襲から免れたと、一般には思われていますが、実は西陣空襲により付近に7発の高性能1トン爆弾が投下され、うち5発が爆発した、という事実を知ったのは、普通の民家の当主が、玄関先に掲出している説明ポスターからなのです。
この町の創業200年を超える油屋さん(山中油店)は、お店自体が国の登録有形文化財。なたね油を買うついでに、知られざる名所見学ができるのです。
このように、さほど有名ではない町でも、旧跡や歴史的スポットが豊富にあるのが京都なのです。また、近くの豆腐屋さん(岩本豆腐店)の夏限定のきぬごしは、ほのかに柚子の香りがして、有名ブランドの豆腐と比べても同格の味です。よくボウルを持って買いに行きました。
普通の町の豆腐屋が名品といえるものを生み出す文化の底力に触れたとき、尊敬の念がわき、これが京都の奥深さだと、感心したものです。
京都を旅する機会があれば、今度泊まる宿のある町、是非行ってみたい観光スポットのある町、かつて訪れた好きなお店のある町等々、自分にとって、ちょっとしたきっかけのある町にフォーカスしてみましょう。そして急がず、あわてず、愛情深く、一見平凡に見える町並を歩いてみて、アレッと思うところで、立ち止まってみてください。立ち止まる個所が多く、それらが、メディアが拾いあげない、人知れずのところであればあるほど、そこはあなただけの愛すべき町になってくるはずです。
そしてひとつの町というディテールを深堀することで、かえって、京都の全体像が見えてくることもあるように思われます。
何度でも行きたくなる自分の町がつくれたら、京都が自分の物になった気がしてくるようです。
(2017年11月18日)