観光から「軽い運動」へはずす
ここからは狭く、深くの上級編です。
周囲を東山、北山、西山に囲まれた盆地で中心部を鴨川が流れる、というのが京都の地形の特色です。そこで、この地形を利用してより深堀りするために、京都へ行く目的を観光から軽めの運動・ハイキングへとはずしてみてはいかがでしょうか?
私が、この手がある!と思ったのは、泉涌寺から昔の埋葬地だった鳥戸野陵、小野小町の墓を通り、京女鳥辺(きょうじょとりべ)の森を抜け、秀吉公のお墓のある豊国廟への尾根道を歩いたときでした。山伝いに歩けば、歴史的なスポットや有名寺社が、点でなく線でつながっていく面白さに気付いたのです。一般的な山のハイキングは自然を楽しむだけですが、多数の名所・旧跡がセットになったハイキングは京都でしか体験できないものです。古き世に生きた人々と同じ目線で、京都の町を俯瞰すると、一瞬異界を旅しているような錯覚に陥りそうです。人や車や高い建物に阻まれながら、市街地を縫っての観光では決して得られない感覚です。
泉涌寺コース2回目は、たまたま、女友達と午後4時30分に訪れたのですが、鳥戸野陵へ向かおうとしたところ、拝観受付のおじさんに、こんな時間から女性二人は危ない!と止められてしまいました。初夏のころですから、まだ太陽は高く、女性といっても、おばさんだし、と思いつつも行くのを断念しましたが、何ともいえない、妖しい気配が漂ってくるようで、かえって興味は増すばかりでした。
これに味をしめた私は、早朝ハイクが病みつきになりました。ハイキングコースの例を2つほど挙げてみましょう。一つ目は人気の観光スポットをつなぐ大文字コースです。順路は銀閣寺→行者の森→大文字の火床(ここで京都を俯瞰)→大文字山頂→法然院→哲学の道(ここでクールダウン)で、所要時間は約3時間(いたるところにトレイルコースの目印あり)。もう一つ洛外から洛中をつなぐ山科疎水・毘沙門堂・南禅寺コースです。こちらの順路は御陵駅(地下鉄東西線)→山科疎水→毘沙門堂(深山の赴き)→山道に入る(ここも目印が多数)→南禅寺→琵琶湖疏水という疎水をつなぐルートで、約2.5時間くらいでしょうか。
このように全長80キロの東山・北山・西山のコースを好みや体力、持ち時間に合わせて自分仕様の深堀コースに替えて楽しむことができます。ハイキングコースの詳細は、京都府山岳連盟のサイト「京都一周トレイル」や同連盟が監修した「京の絶景と名所旧跡めぐり」という書籍で知ることができます。
京都の山は、標識がいたるところにあり、どの道も寺社や人家につながっているので、道に迷って遭難するということはまずありません。標高も200mから400mが中心なので、中強度の散歩程度の体力があれば大丈夫です。装備もワンデイバッグパック、歩きやすい服装に、スニーカー、帽子といった軽装で十分です。
ハイキングは、晴れ渡った秋から初冬の時期が最高です。雨が少ない。広葉樹が葉を落とし、景色が雄大。汗ばむ身体に心地よい冷気。人も少ない。と好条件が揃っているからです。
鴨川。前方が北山方面
また、鴨川沿いをウォーキング、ランニングしながら、京都を線でつないでいく、という手もあります。鴨川ウォーカー、ランナーはここ数年で確実に増えています。目立って増えているのは60、70代のシニアや外国人旅行者です。私も京都暮らしをするようになってから、ランニングを始めました。きっかけは、そこに鴨川があったからです。あの村上春樹さんも、ボストンやホノルルの名コースと並んで鴨川を好んでおられるようです。顔見世の頃は、毎朝、市川海老蔵さんとすれ違いました。東京から京都へUターンして家業の佃煮屋(津乃吉)を継いだ若社長は、鴨川がなかったら、京都には戻ってこなかった、と断言するほど、鴨川は京都人にもそうでない人にも愛されています。
鴨川沿いに上流から、3つのランニングコース、上賀茂コース(約9.2㎞)、高野コース(約4.3㎞)、丸太町コース(約2.5㎞)がありますが、自分なりのペースで自由に走る・歩くコース設定ができます。私が早朝よく走るのは、美しい稜線がまるで墨絵のような北山の上流へとさかのぼっていく上賀茂コースです。この川のシンボルである鴨の群れや、静かにたたずむアオサギ、季節によってはカワセミや鹿の親子を目の端に捉えながら走ります。葵祭りの行列が最も美しく見えるとされる葵橋を越え、下賀茂神社に続く糺の森、春にはあでやかな枝垂れ桜の並木を過ぎ、西賀茂橋で折返す頃には、ようよう白くなり行く山ぎは、少しあかりて、東山から朝日が昇ってきます。
鴨川の流とともに、ウォーク&ランすれば、京都の中心部に連なる見どころのすべてを、何者にも阻まれず、捉えることができます。まるでリアルな絵巻を見るかのよう。
(2017年11月25日)